小説3「入れ代わり、立ち代わり。」
「なるほどね」
ひとまずそう会話をつないでおく。
ただここで、大きな混乱が生じている。
藤村?
何度も頭の中でこだまする。頭の中であっちに行ったりこっちに来たりして、頭の壁に当たるたびに『藤村』と言う文字が増えていく。
日畑くん...。
あの雰囲気といい、声といい、日畑くんに違いないはずなのだが、目の前にいるのは藤村くんらしい。けれども、市椛はそうちゃんと呼んでいた。日畑くんの名前は確かに颯太(そうた)。ここで名前を確認したいが、このタイミングできくのはあまりにも不自然。
もしかしたら目の前の人は日畑くんではないのかもしれない。11年の月日が経てば人は変わるのかもしれない。それに、世界中にはたくさんの人がいる。そしたらそっくりさんもいるはずだ。そうしたら、そうしたら...。
どんどん主観的になっていく。私の願望が私を取り囲む。
もしかしたら家庭の事情なのかもしれない。それで苗字が変わったとしたら?十分ありうる。小学校を卒業して以来の日畑くんの消息を私は知らない。私の通っていた中学校に日畑くんはいなかった。もし中学校に上がると同時に家庭の事情で引っ越して、その引越し先が市椛と同じ中学校の地区だったら?そうしたらつじつまが合う。最初に目があった時、彼は驚いた。そして、その動揺はおさまらなかった。きっと彼は私を知っている。
目の前にいる人が日畑くんでないなんて考えると、楽になる。はじめましても嘘にならないし、過去も気にしなくてよくなる。ただ、私は日畑くんだと感じた。これはどうすべきなのか。目の前の人が誰かわからず、伺えず。闇夜に彷徨う私は思考の停止を決意する。これ以上考えたところで答えはでない。時の流れに任せよう。
ただ、今この状態で思考を停止してしまうと不自然だ。まずは、ひとりになる状況を作らなければならない。何か良い策はあるのか。
ある。
「あ、昼寝をしてくるね。明日から1週間始まるから、今日は体に優しい日にしたい。」
そう言って、満面の笑みを浮かべる。幸せそうに。