ヌカボシの雑記帳

気ままにブログをかいております。平凡な日常をつらつらと。ゆるーく雑記。

小説2「入れ代わり、立ち代わり。」

 

 

   日畑くんは驚いた顔をしている。

   体じゅうから驚きの感情が溢れでているわけではなくて、力が抜けてしまったような、魂が抜けてしまったような感じ。目を少し見開いて、口が少し開いている。

 

   私ももちろん驚いた。

   こんな偶然が起きたことに。

   もう会うことのない人だと思っていた。それなのに何故かここに、今目の前に日畑くんがいる。

 

   どうして。

 

   けれども、私は感じた。

   その理由はわからないが、ここで私たちの過去を明かしてはいけないと直感した。

   そうしてすぐに我に返ったのである。幸いにも、私には動揺したときでも冷静になれる機能が備わっているので、万事休した。

   

   しかし、日畑くんは明らかに動揺をしている。私が『はじめまして』と言ってしまったことで動揺が加速したような気もする。これまでは考えに至らなかった、反省。

   ただ、考えていれば時間は過ぎていく。不自然な会話の間は慎まなければならない。市椛(いちか)に私たちの過去を気づかれてしまう。そうなってしまうと、ややこしい。話を続けなくては。

   

 

   「市椛と一緒にここに住んでます。一緒に住んで、半年と少し?」

   話を市椛にふってみる。あくまで冷静に、落ち着いて。

   「そうね、もうそんなたつんね。」

   これで成功か?市椛は天井を見ながらなにやら思い出している。日畑くんは相変わらずきょとんとしたままなのだが、もう私にはフォローしきれないので、自分で回復することを待つことにする。

   「そうそう、ここきたばかりの時、今日は何作ろうなんて30分くらい悩んでレシピ調べてた。だけどもうこれね。」

   そう言って市椛はコンビニ袋を掲げる。

   昔のことを思い出していたのね。ほっと胸をなでおろす。そして、笑いながら会話を続ける。

   「私も今日は即席ラーメン。」

   市椛も日畑くんも笑う。

   私も笑って、いつもの自分に戻していく。そうして何気ない会話が続く。

 

 

   今日乗った電車にいた変わった人の話。

   

   コンビニで新作のスイーツが売られていて、つい買ってしまった話。

 

   市椛がよく食べるという話。

 

   偶然入った店がとても良かった話。  

    

   そんな話をしながら、二人も昼ご飯を食べ終わったところで、市椛が言う。

   「偶然といえば、そうちゃんとは中学校の時の同級生なんだけど、こないだ偶然会ったんよ。」

   私も今日、日畑くんと偶然再会した。

   ところで、日畑くんと市椛は同級生なんだ。それも偶然。なにかが自分の見えないところで繋がっているような気がして、少しゾッとした。私の見えない世界はたくさんある。今、見えない世界がここにあることを知ったけれども、もっと見えない世界は広い。その世界で今みたいに、私の知らないところでいろいろな人がつながっている気がする。なんだか自分には把握できない感じが気持ち悪いような、怖いような気がした。

   「そうなんだ。こっちで会ったの?」

   「そうじゃなくて、地元で。」

   「地元の図書館で偶然会ったんです。」

   日畑くんもだいぶ落ち着いたようだ。ただ、まだ完全ではないようで、目を少し泳がせている。

   「へぇー、中学校のクラスメイトって覚えてるもんなの?」

   「それが、そうちゃん苗字が藤村(ふじむら)で、私は萩山(はぎやま)でしょ?それで近かったから。中学校って苗字で近いと技術だとか、美術だとかで結構喋るじゃん。」