小説4「入れ代わり、立ち代わり。」
ひとまず部屋に入ったはいいが寝れるはずがない。
ずっと忘れようと願って、やっと思い出さなくなっていたのに。
目をゆっくり閉じた。
落ち着こうと思ったけれど、あの時の光景が映って、消える。それから再び光景が映る。
どうにもできなかった。
ただただ、涙が流れるばかりだ。
どうしようもできないこの事実を前に私は争うことができない。
話したいことが募るけれど、どうせ伝わらないのだ。こんな経験、誰もしたことがないのだから。
溢れては流れる涙を皐はなすがままにすることしかできない。
遠くから笑い声が聞こえる、きっと二人なはずだ。幸せそうなその声はいつまで続くのだろうか。